FXの知識 介護福祉士で1型糖尿病のレビューとつぶやき帳-国内推理小説-
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2013年10月15日(Tue)

倒立する塔の殺人/皆川博子/PHP文芸文庫

カテゴリー:国内推理小説記事編集


倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)倒立する塔の殺人 (PHP文芸文庫)
(2011/11/17)
皆川 博子

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かなり昔に皆川博子さんの本を読み、美しいと思ったことを思い出したこともあって、今回取り上げるこれではなく、本格ミステリ大賞を受賞している『開かせて頂き光栄です』を購入したのだけれども、そういえば以前に新刊コーナーで『倒立する塔の殺人』を見かけ、まず表紙が美しくて目を引いたので手に取り、皆川さんの本だというので非常に気を引かれたことを、それで思い出した。

お金の都合だったか、少女小説的なのではないかと----事実、読後に読んだ解説に三浦しをんさんが、元々はヤングアダルト向けとして発行されていることを書いてらしたけれども----その時には買わなかったものを、つい最近、大型書店のある街へ赴いた際に、まずは最初に心に引っかかったこれから読んでみようと、購入してきたのだ。

購入したものの時間を取れずにいたのだけれども、休日を無為に過ごしてしまった罪悪感から、明日も休みだからと夜になって読み出し、大きな音でTVを見る両親に、時折、はっと現実に引き戻されはしたものの、大方、夢中になって読み耽った。
そうして、全文をまとめて読める日にこれを手に取ったことを、とても嬉しく思った。

その御蔭でずっと、手記を読むことを託されたベー様こと阿部欣子のように、時折中断されつつも託された時に手記を読む、同じ体験ができた。
この物語の世界に浸りきった身には、非常に嬉しいことだった。
女子校の校風にそぐわぬ逞しい欣子は、手記を託した三輪小枝(さえだ)でなくとも、頼もしさを感じられる少女であり、読者もしばし彼女になったかのように、自分なりの推理を展開していける小説だ。
一筋縄ではいかぬ小説でもあるのだけれど。

舞台は戦中から戦後の日本。
どちらも良家の子女の多い、ミッションスクールと都立の女学校の生徒たちの、非常に美しく儚い恋慕やら、少女らしい気高さをみせる物語と同時に、学徒勤労動員だとか忠君愛国、飢えや空襲、戦地に赴いていった家族や友人の喪失も進行していく。

大人たちが勝手に起こした争い事やそのために失った家族という痛みをも凌駕するように、大人でも子供でもない場所へ留まったものの抱える美学の物語が、綺麗に、違和感のないものとして胸に迫ってくる。
美と喪失、無についてが描かれて入るものの、若さの持つ強さが鮮明に胸に狭っても来る。
ミステリーを読んだのではあるけれども、とても綺麗な、端正に描かれた少女小説を読んだのだ、という気持ちにもなれる。

良家の子女だらけの学校の中で、青物屋の娘でありながら体力で合格して通う阿部欣子は、「イブ」というアダ名を、異分子であるがゆえに付けられていたものの、特に意地の悪いことをされるわけでもなく、本人も非常に強さと優しさを兼ね備えた少女。

彼女は打ち解けて話せて、自分をベー様と唯一呼んでいた友人を空襲でなくし、闇米を買いに行った母を空襲で亡くし、同じ日に栄養失調で体調を崩していた妹までもを亡くしている。
父は戦地に赴き、家は空襲で焼けたので防空後に暮らし、という有り様だったのだけれども、空襲で死んだ友人の次に学徒勤労で組むこととなった、三輪小枝の住む家に寄せてもらえることになる。

本当に心の底から、なんてことだと思うのは、彼女が母と妹を同時に失うのが、昭和20年8月5日だった、ということだ。戦争の残酷さが迫ってくる。

三輪小枝もまた、疎開していた母と弟妹を阿部欣子よりも前、7月17日に空襲で亡くし、それより前には父が戦地で病死していたものの、叔母の家が焼け残っていて、そこを提供してもらえたのだ。華奢な小枝を護るように作業する欣子に心を開いて、彼女もまた、イブをベー様と呼ぶようになっていた。

その小枝が慕っていた年上の成人女性で、ミッションスクールの専門生であったが空襲で亡くなった上月葎子の死が、小枝にはどうしてもしっくりと来ずに受け入れられない。
それで、今や頼れる人間の筆頭であり世界を共有しても構わぬ存在の欣子へ、以前に葎子から託されたノートを託し、真相を見ぬいて欲しいと頼むのだ。
ノートは、少女たちの間で流行っているのだという、リレー小説的なものに、彼女たちの心の中を吐露する手記の混ざったものだった。

いわゆるシスターフッド的関係、吉屋信子的なお姉さまの世界が手記の中に展開されるものの、彼女たちには心に秘める異性の存在があり、どちらかといえば彼女たちは、恋愛の代行としてではなく、心から打ち解けることの出来る人を求めて、恋愛ごっこをしているのだろう。
性的なものの含まれないぶん、少女たちにとってそれは、ただ愛おしさに胸を焦がして誰かを思い、少女としての穢れない存在も保つ、楽しい時間なのだろう。

さて。
多少のネタバレ。

ある人物がかなり初期の段階で、何かしら事件に関与するであろうことは、なんとなく予感できる。多少執拗な気のする描写や、その後に出てくる手記で印象の違う描かれ方をする点などで、きっとどこかでは絡むんだろう、ということは気付く。

260ページあたりで暴かれることも、これは結構早い段階で、この手のものを読んでいる人は気付くだろうし、欣子も同様に気がついている。

この手記の書き手は、全員、言っている通りの人物なのだろうかという疑問もまた、当然に湧いてくるのだけれども、それでもやはり、驚かされる展開であった。

手記内小説に出てくる女性の名前は、さり気なく真実を示唆するけれども、しかしその名前と、手記内小説で不審な死に方をした教師が口にした女性の名前の類似にもこだわり、欣子のように名前に秘められた恐ろしい意味を導き出すことは出来なかった。

あとから言われれば、なんというなかなかに真っ向勝負な話だったんだろう、ってな描写もね、欣子が気が付き、真の探偵がまとめあげていったあの感じ、面白かったし、真の探偵へとても暖かい気持ちになれた。たぶん、解説の三浦しをんさんも、真の探偵にそんな気持ちを持ったんではないだろうか。

そうして手記は、なかなかに意外な人間が締めくくるのだけれども、この辺の件を書いてしまうとあまりにネタバレだからきちんとかけないんだけれども、その手記の描き上げられる過程に心に暖かなものを感じずにはいられないものだった。

ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』『白痴』の二作と、エゴン・シーレの絵画、日本語に訳されたクラシック音楽の合唱曲といったものたちが、物語を彩ります。
今年はやけに、ロシア文学者さんのエッセイを読んだこともあって、ドストエフスキーづいている。

『カラマーゾフ』が実は未完の小説であることは、真相を自分なりに考えて書き継がれる小説に関係有るのかしら?

真犯人が恋い焦がれつつも憎んだ真の被害者とも言える人物は、ナスターシャ的なのだろうか?
彼女の幼い日の傲岸さが真犯人の中にあった善と悪を分断させて、ついにロゴージンと同じ道をたどったのだろうか?

真犯人の殺害方法であったりの不確実性というか、曖昧さは、真の被害者が全く真犯人へ感心を示さなかった上に、ボタンの掛け違いで真犯人の意図する関心を向けることなく、『白痴』の三角関係のようにもなれなかったから、なんだろうか?
いや、強烈な嫉妬と殺人、ということなのかもね。

なんだかんだで『罪と罰』について、真犯人が言及してもいるんだけれども。
そういや、あたしが全く知らん話だったんで書き忘れたけど、アンリ・バルビュスの『地獄』も、なかなかに重要モチーフだった。

戦争の爪あとも青春の残酷さも美しさも全てを吸い込めるような、ミステリーでした。
読み返すとなんかもっと、色々発見がありそうな気がする。

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2013年06月16日(Sun)

QEDベイカー街の問題/高田崇史/講談社文庫

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QED ベイカー街の問題 (講談社文庫)QED ベイカー街の問題 (講談社文庫)
(2003/09/12)
高田 崇史

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シャーロック・ホームズ絡みのものを見つけると読みたくなる私。
つい最近、ここにも感想を書いた「犬の伊勢参り」をアマゾンではないサイトで購入したため、送料無料にするためにほかにも本を頼んだのでしたが、それがこの本でした。
以降ネタバレあるので「続きを読む」からお願いします。
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2012年05月23日(Wed)

贋作「坊ちゃん」殺人事件/柳広司/角川文庫

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贋作『坊っちゃん』殺人事件 (角川文庫)贋作『坊っちゃん』殺人事件 (角川文庫)
(2010/11/25)
柳 広司

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夏目漱石の「坊ちゃん」はご存知だろうか?
知っているときっと、漱石の文章や設定を生かしつつ違う解釈を盛り込んでいる辺りなどが、より面白く感じられる。
坊ちゃんの言い回しをそのまま使っている部分も多く、そのぶん、続きの物語のような雰囲気で読むことができる。更に謎の解ける辺りでは、赤シャツと野だいこの嫌味な会話の、坊ちゃんの耳には入らなかった部分にこんな言葉が入ってくるのかというのが、とても面白い。
バッタ事件のくだりはもっとトリッキーなことを期待していたので、一瞬、あれ、と思ったものの、なるほど!と思う。

まず、本家の坊ちゃんに続く話だから、そのあらすじを知ったほうがよさそうだけれども、これは「贋作」の冒頭で、作者がパリっと簡潔にまとめているのみならず、非常に綺麗に話しと織り交ぜてもいるから知らなくても大丈夫、だと思う。

なぜ断言できないのかというと、あたし自身はすでに原作を何度も読んでいる上に、つい最近も読み返したからこそ、この話もその流れで読んだからだ。そもそもバトンで好きな人物を答えた時に、坊ちゃんを取り上げたほど好きな小説の登場人物なのだ。

原作の再読を始めた時にはまだ、「贋作」を読もうと意識したわけではなかったけれども、読んで少しのところでふと思い出したこともあって、きっとこの辺りは謎として使われるのではないかと予測したりも楽しかったので、断然、原作を知ってからのほうが更に面白いのではないか、と考えている。

原作の三年後、教職を捨て東京で街鉄の技師になっている坊ちゃんが、やはり教師をやめて炭鉱で働いていたのだと言う山嵐と再開するところから始まる。
自分たちが鉄拳制裁を加えた赤シャツが、その日のうちに首をくくって自殺したのだが殺しではないかと思う、愛媛まで確かめに行こうと山嵐に誘われて、上司に一筆書いてそのまま一緒に出かける坊ちゃんは、原作のままのおっちょこちょい、でも真っ直ぐで真っ正直な男。

にしても、まさかと思うほど壮大なものに、それと知らずに短い教師生活中に巻き込まれていた坊ちゃん。
え?と思うのだけれども、原作の描写が、新たなストーリとして成り立っていくのがスムーズで、ああ、本当にそうだったのかもしれないと思わせる。
なんというか、野だいこはそうとう割りを食わされた格好。赤シャツの弟くんは果たして今どうしているのかも気になる辺り。

これはもう、ミステリーだから読んでみてくださいとしかいえないけれども、それに薄闇だといってもそのトリックはどうかな、というのが出てきたりもするのだけれども、坊ちゃんが最後までちゃんと、漱石の坊ちゃんのままの綺麗な性格で、期待を裏切らぬ気持ちのいい啖呵を切る。
すでに亡くなった老いた下女の清もおかげもあって、その真っ直ぐな部分を坊ちゃんは大人になっても妥協せずにすんだのだろうし、だからこそ本当にまっすぐに、自分に愛情を注いでくれた清を大切に思うのだろう。

そうしてあたしは、あの方々がいることも含めた上での愛国心というのが愛国なのだと思うんだな、というのを、赤シャツ殺害犯の主張に全く同意できなかったので、強く思いました。

ね、なんか壮大な話になっているんです、あの「坊ちゃん」が。
国を愛したり、国を憂いたり、なんかもう、そういう勢いの話になってる。
壮大な話の中、でも、坊ちゃんはブレない。

ああ、やっぱり坊ちゃんはいいね、と、この坊ちゃんは漱石が描いたわけではないんだけれども、再確認できる点でも、非常に楽しめた。
ミステリーだけれども、この作品の肌さわりが非常に心地よいので、多分再読してしまうだろう。
スレッドテーマ:感想 ジャンル:小説・文学
 
│posted at 03:35:08│ コメント 4件トラックバック 1件
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